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大阪高等裁判所 昭和27年(ラ)110号 決定 1952年2月22日

抗告人 村田新八

右代理人弁護士 沢田直也

主文

原審判を取り消す。

抗告人の名「新八」を「新兵衛」と変更することを許可する。

理由

抗告人は主文同旨の裁判を求め、その抗告理由は別紙記載のとおりである。

そこで考えてみる。申立人の祖父村田新之助はその父新兵衛の長男で父死亡後明治十年五月十日改名を許可されて新兵衛と称し、その子(抗告人の父)新吉郎は父新兵衛死亡後明治四十二年十一月二十日許可によりその名新吉郎を新兵衛と変更し、同人は昭和二十二年五月一日隠居し、長男である抗告人新八が、その家督を相続した。昭和二十五年三月二日抗告人の先代新兵衛は死亡した。

右先代は○○○郵便局長であつたが、抗告人も同郵便局長を勤めるとともに、祖父より受け継いだ山林田畑を所有し山林業農業を営んでいる。抗告人は通名として新兵衛の名を用い、邸の表札にも新八の名を用いておらず、世間の人は老若男女を問わず、多く抗告人を呼ぶのに「新兵衛さん」を以てし、「新兵衛さんの郵便局」と呼ばぬと、郵便局の感じがしないとしている。以上のことは抗告人が原審並びに当審に提出した証拠書類、原審のした調査の結果によつて認めることができる。右事実によれば抗告人はその名を父祖の名を襲つた新兵衛と変更するについて正当の事由を有するものというべく、事件抗告は理由がある。

よつて家事審判規則第十九条第二項により主文のとおり決定する。

抗告理由書

一、原審は、襲名による名の変更は特に営業者に限つてこれを許すべく、非営業者については祖先が襲名により改名を許可されていてもその沿革だけでは改名を許すべき理由とならぬこと、申立人の職業は郵便局長であるから先代の名を襲名しなくても、郵便事務の遂行上著しい不便支障を来すことはないという理由の下に抗告人の申立を却下した。

一、ここに営業が商人の営利的活動という意味に於て用いられているのであれば、抗告人は少くとも現在いわゆる営業者ではない。しかし襲名による名の変更を営業者に限らねばならぬ理由が何処に存するのであろうか。経済生活は人間の生活の重要な基盤であろうけれどもその全部でないことは謂うまでもなく、更にその経済生活でさえも全部がいわゆる営業によつて尽されるものではない。氏名が商人の営利的活動のために存在するのであれば、それは商号と同一の存在理由しかもたないことになりはせぬだろうか。

一、抗告人は原審審判摘示の事実のほか、父祖よりうけた山林田畑を所有し、山林業、農業を営んでいる。これらは前記商法上の営業ではないが、抗告人の経済生活を支えているものである。そして三等郵便局長の職は抗告人の生活の全部では決してない。父祖代々が世を送つた土地、邸に生れ、父祖の家祖の家産をつぎ、そして父祖代々がその土地において「新兵衛さん」との呼称とそれに相応する社会的地位――信用とこれに応ずる自重とを含めて――を認められてきたその地位を抗告人も亦荷つて立つているのである。それで抗告人としては今後の生活上、抗告人の周囲の人々が抗告人を呼び、抗告人自らも称する呼称を戸籍上のそれと合致させることを求めるのであつて、この申立を排斥しなければならない特段の合理的理由は見出せないように思われるのである。

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